2026年1月16日

ラ・ロカ農園 – プラナーダスの変革を牽引するスペシャルティコーヒーのパイオニア


 

コロンビア南西部、トリマ県に位置するプラナーダス地域。標高2,150メートルにも達する高地を持つこの地域で、一人の農園主が地域全体のスペシャルティコーヒー産業を変革させました。その中心にいるのが、ラ・ロカ農園(Finca La Roca)を営むホルヘ氏です。

彼の成功は、単に優れたコーヒーを生産したということだけにとどまりません。ホルヘ氏の取り組みは地域全体に波及し、プラナーダスを代表するコーヒー産地へ押し上げる現象を生み出しました。私たちはこの影響力を「ホルヘ・エフェクト」と呼んでいます。本記事では、ヘイズとラ・ロカ農園との出会いから、ホルヘ氏の哲学、プロセスへの深い理解、そして地域への影響までを紹介します。

 

COE優勝前から際立っていたポテンシャル

私たちとラ・ロカ農園との取引は、コロンビアの友人バイヤーからの紹介で始まりました。

そして、初めてピンクブルボン種のコーヒーを買い付けたその年、彼のロットがCOEで優勝しました。「ポテンシャルがすごい」と感じていたコーヒーが世界的に認められた瞬間であり、私たちにとっても貴重な経験として記憶に残っています。

この成功により、ホルヘ氏は一気に世界中から注目を集めるようになりました。特にアジア市場で需要が大きく、中国からの引き合いが非常に多いと言います。日本市場においては、当社調べでは、ヘイズが唯一の取引先としてラ・ロカ農園のコーヒーを扱っています。

 

受け継がれた農園で始まった、品質への挑戦

スペシャルティへの転換

ラ・ロカ農園は3世代続く農園です。それまでの世代もコーヒーを栽培していましたが、スペシャルティコーヒーとして本格的に取り組み始めたのはホルヘ氏の代からでした。5年ほど前に初めてスペシャリティグレードの生産を開始し、2022年のCOE初エントリーで3位、2023年のCOEでは24位に入賞するなど、その技術と情熱は年々高まっています。

現在、ホルヘ氏は3つの農園を所有しており、コロンビアの一般的な農家と比べると規模は大きいといえます。出会った当時は、アソペップという共同組合のプロセスステーションで自分のコーヒーをプロセスしていましたが、現在ではアソペップの敷地内に自分専用のプロセスプラントを建設しています。

栽培している品種も多様。ピンクブルボン種をはじめ、レッドブルボン種、ゲイシャ種、チローソ種など12品種を育てており、希少品種への植え替えや区画の拡大に積極的に取り組んでいます。

ホルヘという人物 – 成功を支える3つの要素

圧倒的な働きぶり

ホルヘ氏の成功を支える最大の要素の一つが、その勤勉さにあります。彼が運営するプロセスステーションは24時間稼働のシフト制で(収穫が盛んな時期)、彼自身も夜中の12時頃までプロセス作業をしていることが珍しくありません。夜中に電話をかけても、プロセスプラントにいることがよくあります。特に収穫期には、朝から晩まで本当によく働く姿が印象的です。

トライ&エラーで築いた技術

ホルヘ氏にはプロセスを教えてくれた師匠がいるわけではありません。彼は自ら様々な実験を重ね、トライ&エラーを繰り返してきました。その結果、現在では乾燥工程の重要性により注目するようになっています。どのスピードで水分値を落とすかが重要だと考え、グアルディオラというドラム式の機械で熱風を入れて乾かす方法を採用しています。最近は、発酵とともに乾燥にも重点を置くようになってきているといいます。

唯一無二のテロワール

ホルヘ氏は、好気性発酵によるクラシックなウォッシュドから、嫌気性発酵(アナエロビック)まで、幅広いプロセスに取り組んでいます。日本では「特殊プロセス」という印象を持たれがちなアナエロビック発酵ですが、コロンビアではすでに一般的な手法として受け入れられています。アナエロビックは、フレーバーを作り込むための手法としてだけでなく、発酵をより正確にコントロールするためのものです。酸素のない環境では微生物の活動が穏やかになり、発酵の進行はゆっくりになります。これはスローモーションのような状態で、発酵を見極め、調整できるポイントが増えることを意味します。もちろん、フレーバーのためにアナエロビックを採用している生産者もいます。

一方で、彼のウォッシュドプロセスも常に特徴的です。ウォッシュドは多くの水を使用する工程であり、適切な排水処理が行われない場合、大量の有機物が河川へ流れ出し、生態系に負荷を与えるという課題があります。ホルヘ氏は、ミューシレージを洗い流す工程で同じ水を繰り返し使用することで、極めて少ない水量でのウォッシュドを実現しています。その結果、通常のウォッシュドよりもわずかにミューシレージが残った状態で乾燥工程に進み、クリーンさの中にしっかりとした甘さを感じる味わいが生まれます。通常のウォッシュドプロセスで使用される水量の1/100以下となっています。

テロワールは本来、土地だけで完結する概念ではないのかもしれません。ホルヘ氏のコーヒーを通して見えてくるのは、ファーミングとプロセスが連続したひとつの表現です。その全体像こそが、彼にしか生み出せないテロワールと言えるのではないでしょうか。

 

プラナーダスという産地の成り立ち

標高と生産量に恵まれた地域

プラナーダスは、コロンビア国内でも標高の高い地域として知られています。最高地点では2,150メートルほどに達し、生産量にも恵まれた地域です。

この地域では古くからコーヒー栽培が行われていましたが、スペシャルティコーヒーの産地として広く知られていたわけではなかったようです。ホルヘ氏のロットがCOEで入賞したことで、プラナーダス地域全体のポテンシャルが広く認識されるようになりました。

かつての歴史的背景

プラナーダスの歴史には、厳しい時代もありました。この地域は、FARC(コロンビア革命軍)という左翼ゲリラ組織が発祥した街の一つで、長い間政治的に孤立していた地域でした。地域経済はコーヒーに大きく依存しており、約9割がコーヒー、残りがカカオやマラクジャ(パッションフルーツ)などの栽培で成り立っています。

地域を支えた先代たち

プラナーダスには、ホルヘ氏以前から地域を支えたリーダーたちがいました。その一人がドン・カミーロという人物です。彼は長年にわたってアソペップ共同組合を支え、その功績は政府からも評価されるほどでした。実際に、新しいオフィス兼倉庫をプレゼントされたこともあったと言います。こうした先代たちが築いてきた基盤の上で、ホルヘ氏が品質に大きく舵を切ったという流れがあります。

 

一人の成功が地域を変えた「ホルヘ・エフェクト」

ホルヘ氏の成功は、彼個人にとどまりませんでした。彼が入賞したことによって、地域全体に大きな変化が起きたのです。ヘイズではこれを「ホルヘ・エフェクト」と呼んでいます。

「良いものを作れば高く売れる」という共通認識

ホルヘ氏が入賞して売れるようになると、世界中からバイヤーがつくようになりました。良いものを作ればちゃんと高く売れるということが目に見えて分かるようになったのです。

これが地域の人たちの共通認識となり、良い品質への植え替えが進み、品質を上げていこうという良い循環が生まれました。

知識を共有する姿勢

ホルヘ氏がプロセスした味わいが良いことから、多くの人が彼にプロセスを頼むようになりました。彼はアソペップのプロセスリーダー的な存在になっています。

一般的に、発展途上国では成功した生産者が自分の技術を隠したがる傾向がありますが、ホルヘ氏は、その知識や成功体験を周りにも共有するという姿勢を持っています。だからこそ、彼の成功が周りに波及していったのです。

地域経済の発展

コーヒーが変わると、街全体がガラッと変わります。実際に、町には新しいハウジングプロジェクトの立て看板が見られ、橋などのインフラも整備されました。私たちのような外国人もコーヒー目的で訪れるようになり、地域全体が活気づいています。

「どこに石を投げるか」という視点

ヘイズでは、買い付けをする際に「どこに石を投げたら一番波が高く立つか」を意識的に考えてきました。誰と仕事をするかにこだわり、広く浅くよりも、深い信頼関係を築いていくことを重視しています。

仮に当人が大きな成功を収めても、その人だけで完結するケースももちろんあります。当たり前に周囲と情報を共有し大きな枠組みの中で、好循環、持続維持を体現していける人物。今回のケースでは、そんなホルヘ氏だったからこそ、地域全体に良い影響が広がっていきました。

彼らとは、長く深い付き合いを続けていきたいと考えています。今年、コロンビアで開始されたキッズ向けのカップテイスターズでは、ホルヘ氏の息子が2位に入賞しました。彼の息子がプロセスしたコーヒーが飲める日も、そう遠くないかもしれません。

 

これからのパートナーシップ

ヘイズとしては、価格維持の面では良い関係が築けていますが、今後はもう少し生産の段階に一緒に入っていけたらと考えています。具体的には、機材の導入支援、レシピの共同開発、品種の拡大などが想定されています。

生産の段階まで入っていけるような関係になれば、お互いにしっかりと高め合いながら、面白いことができるのではないかと考えています。単なる売買の関係を超えて、共に品質を追求し、新しい価値を創造していくパートナーシップ。それが、私たちの目指す未来です。

そして、このような取り組みは、ラロカ農園のコーヒーを愛用してくださるロースターの皆様とも共に実現していきたいと考えています。例えば、コーヒーの販売を通じて産地への投資や支援につながるような仕組みを作り、産地とロースター、そしてお客様をつなぐ循環を生み出していく。そんな取り組みを、皆様と一緒に形にしていけたらと思っています。