
カリブ海から立ち上がる、世界で最も標高の高い沿岸山脈。
コロンビア北部のシエラネバダ・デ・サンタマルタは、海抜0mの浜辺から数十キロ先に5,775mの雪をいただく頂を持つ、稀有な地形をしています。アンデス山脈から地理的に切り離された「島のような山脈」ゆえに、独自の気候、土壌、生態系がここで育まれてきました。UNESCO生物圏保護区にも指定されているこの土地は、熱帯雨林から高山ツンドラ、万年雪までを一つの山系に内包しています。
カリブの潮風、雪解け水、ミネラル豊富な火山性土壌、そして強い日射と森の日陰の絶妙なバランス。シエラネバダのコーヒーは、他のコロンビア産地とは明確に異なる風味の輪郭を描きます。
「世界の心臓」を守る人々
シエラネバダには4つの先住民族 — アルアコ、コギ、カンクアモ、ウィワ — が暮らし、その中で最大の人口を擁するのがアルアコ族(自称:Iku)です。古代タイロナ文明の末裔である彼らは、この山々を Corazón del Mundo(世界の心臓) と呼び、その均衡を保つ責任を負う守護者として、自然と人間の関係を律する独自の世界観のなかで生きてきました。
その中心にあるのが 「Ley de Origen(起源の法)」 と呼ばれる宇宙観です。神話でも宗教でもなく、自然界のすべての要素 — 石、川、樹木、風 — に役割と霊性が宿るとする、精緻な「法体系」。母なる大地は Seynekun と呼ばれ、生命と豊穣の源として敬われます。
コーヒーは、商品である前に「対話」
アルアコの人々にとって、コーヒーは Mamo(マモ) と呼ばれる精神的指導者の祈りと浄化の儀礼を経て土に植えられ、自然から受け取った恵みには Pagamento(パガメント) という精神的な対価の儀式が伴います。コーヒーは換金作物であるより前に、大地との対話の媒体であり、その栽培行為そのものが彼らの精神的実践の一部なのです。
この姿勢は、結果として「オーガニック」というかたちに結実します。認証ありきの有機栽培ではなく、彼らの世界観そのものが、土壌・水・植生のすべてを尊ぶ栽培方法を必然的に導いている。シェードグロウン(この地域のコーヒーの93%以上が日陰栽培)、バナナ・カカオ・アボカドとの複層的なアグロフォレストリー、化学物質の不使用は「方法論」ではなく「生き方」として実装されています。
ANEI — 文化を守り、世界に届ける
このロットは、ANEI(アネイ) という先住民の生産者協会を通じて輸入しています。
ANEIは、シエラネバダ・デ・サンタマルタとセラニア・デル・ペリハの神聖な山々に暮らす アルアコ、コギ、カンクアモ、ウィワの4つの先住民共同体と地域の農民、合計800家族 が参加する協同組合です。総面積10,800ヘクタール、うちコーヒー栽培エリアは3,800ヘクタール。コロンビアでは最初の先住民コーヒー生産者組織として、1995年から30年の歴史を持ちます。
設立したのは、アルアコ族Yewrwa共同体出身の Aurora María Izquierdo Torres(アルアコ名 Arun Aty)。共同体の自治と経済的自立を実現するため、彼女は マモたち(精神的指導者)および先住民当局との合意のうえで 1995年にANEIを立ち上げました。
組織のミッションはシンプルにこう書かれています:
Sembramos Paz, tejemos el futuro en comunidad y en armonía con la naturaleza.
平和を蒔き、共同体のなかで、自然との調和のなかで、未来を編む。伝統的な世界観を守りながら、世界の制度的変化にもまっすぐに取り組んでいます。
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このロットを扱う理由
haizにとって、このコーヒーを扱う意義は、先住民族のストーリーを商品の表面的な物語として消費することではありません。
私たちが共感したのは、彼らがコーヒーを 自分たちのアイデンティティと文化を継承するための象徴として育てながら、同時に、自立して生きていくための糧として昇華させている ことでした。テロワールに真摯に向き合い、そのうえで、コーヒーを文化と生活の中心に置きながら実践を積み重ねているその姿勢に、私たちは産地パートナーとしての共通言語を見出しました。
私たちは、このコーヒーを単発の取扱品ではなく、継続的に買い付けを行いたいと考えています。コロンビア国内の自社ドライミルも活用しながら、産地固有のキャラクターを損なうことなくスペシャルティとしてのクオリティ向上も目指しながら、彼らのコーヒーをそして文化を届けていきます。
